2015-01-01から1年間の記事一覧
くるりというバンドを一言で言い表すのは難しい。曲のモチーフは青春の蹉跌と、ノスタルジーを感じさせるものが多い。電車(特に赤い電車=京急)、カレー、祭り、ゲーム、水中モーター、りんごあめ、六地蔵、尼崎の魚。ブリティッシュ風味でビートルズが色…
レスターが「ふたりから殺されること」について、ヘミングウェイの短編『フランシス・マカンバーの短い幸福な生涯』を通してさらに詳しく見ていく。先に書いたとおり『アメリカン・ビューティー』とこの短編は似ている。意気に欠け、妻にほぼ見捨てられてい…
不勉強なので仮説ということになるが、アメリカの文物のひとつの流れとして、ピューリタン的な、立身出世と成功、刻苦勉励、自己啓発、教養小説的なるものがある。これは、フランクリン、ワシントンをはじめとした偉人伝、ホレイショ・アルジャーの一連の著…
最後のまとめに入るまえに、この映画の構成の妙について書いておきたい。先にも書いたが、『アメリカン・ビューティー』の場合は以下のように明確に区切られる。 【アバンタイトル(00:25〜01:01)】【タイトル(01:01〜01:05)】【一幕め(01:06〜44:14。43…
落ち込んでいる時期に、レンタルビデオ屋でしこたま映画を借りて、誰にも会わず、頭を空っぽにしてほとんど間断なく何本も続けざまに観るというような習慣をもっているひとは少なくないのではないだろうか。僕の場合、なんとなく選んで借りてきた一本のなか…
レスターの最期に入るまえに、この映画の「現実とイメージのギャップ」と「アメリカの美」について。 キャラクター単位の「現実とイメージのギャップ」はこれまでに示したとおり。レスターはイメージ世界、広告業界と夫婦生活と決別し、身体というリアリティ…
この映画のおもしろさのひとつに「名づけ」がある。そのいくつかはすでに示したがキャラが出そろったところでまとめてみたい。裏をとったわけでもないので仮説だし、トンデモかもしれない。こじつけかもしれない。脚本家のアラン・ボールはHahaha, you fool!…
もうひとり、忘れそうになるが忘れてはならないキャラクターにフランクの奥さん、リッキーの母親であるバーバラ・フィッツがいる。バーナム家での、キャロリン→レスターという抑圧と性別が逆で、フィッツ家では、フランク→バーバラということになる。目立た…
フランク・フィッツ大佐役の俳優、クリス・クーパーは台本を一読して「ああ、私はこの人物の頭のなかに入り込んでしばらく過ごしたいだなんて思うだろうか?」と自問し、このキャラを演じる理由(言い訳)を練りはじめたらしい。「なんてネガティブな台本な…
リッキー、この「心に茨を持つ少年」には三つの面がある。ひとつめは、世界の観察と表現に関しては他人の意向など歯牙にかけない、我なすること我のみぞ知る的なあけっぴろげな個人主義的アウトサイダー性。ふたつめは、それと相反するような、プラグマティ…
アンジェラもまた「現実とイメージのギャップ」の虜囚だ。彼女が外装するイメージはクールなティーンのモデル。自室の壁はそうしたモデルの顔だらけ。やたらと「性に奔放です」話を繰り返し、自らビッチを演じてみせる。的外れな気もするが、パリス・ヒルト…
ジェーンは映画冒頭の導入部で、父親であるレスターから典型的なティーンエイジャーで、angry、insecure、confusedと評されている。怒りに満ちて、不安定で、混乱している。彼女は初登場シーンで豊胸手術についてインターネットで調べ、姿見で自分の胸を確認…
レスター・バーナム氏の最後の一日のBGMはロックそのもののような一曲、The WhoのThe Seeker(「誰」というバンドの「探索者」という曲)ではじまる。 They call me The Seeker 人は俺をザ・シーカー(探索者)と呼ぶI've been searching low and high あら…
『アメリカン・ビューティー』の20年まえに夫婦の不和と離婚を社会問題として取り扱った映画に『クレイマー・クレイマー』(1979)がある。その序盤、主人公テッド(ダスティン・ホフマン)は夜遅く帰宅したというのにすぐに会社に電話をかける。それがつな…
『ボーリング・フォー・コロンバイン』のなかで、間違いだらけの「正しい大人」たちは、高校銃撃事件の原因としてショック・ロッカーのマリリン・マンソンを激しく集中的に糾弾する。しかし逆に、彼だけが実のあることを言っている。いわく「テレビを見る、…
失うものがない普通の男に戻ってさっぱりしたレスター。気持ちが晴れて食欲が出たらしく、ハンバーガー・ショップに直行する。おすすめを断って、big barn burger(デカい納屋バーガー)を注文する。気の大きくなったレスター・バーナムさんとかけてるんでし…
二幕めの開始ナレーション(これはリッキーの部屋を訪れるまえだが)は「自分を驚かせるような力がいまだ自らのうちに眠っていることに気づくのは素晴らしいことだ。できると思いながらいつのまにか忘れてしまっていたこと、そんなことが他にないかと考え出…
レスターのふたつの出会いのうちのひとつめは、娘の同級生・アンジェラへの一目惚れ。もちろん不適切な恋慕、のぼせあがりではある。パートナーがいることはともかく、相手は娘の同級生である。ロリコンである。宮崎駿か大林宣彦である(実は彼らは巷間言わ…
レスターの人生はふたつの出会いがきっかけとなって変わりはじめる。出会いが一幕め、出会いによって変化していくのが二幕めだ。ハリウッド映画はたいてい三幕で構成されていて、その分量はおよそ1:2:1。『アメリカン・ビューティー』の場合は以下のよう…
例によって映画開始からの一幕めで登場人物が出そろい、そのひととなりと普段の行状があらかた明らかにされる。3人構成の核家族、バーナム家とフィッツ家のあわせて6人と女子高生ひとりが主要なキャラ、プラスアルファで4人の男性、あとはその他という具合。…
『キッ ク・アス』の主人公デイヴ(=ヒーロー、キック・アス)は絶体絶命、万事休すの場面でナレーションを通して自嘲気味に観客にこう尋ねる。Hell dude, you never seen "Sin City"? "Sunset Boulevard"? "American Beauty"?(「ねえ、あんたは『シン・シ…